ドゥブロヴニク城壁の門

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ドゥブロヴニクといば、「アドリア海の真珠」というニックネームがうまれる理由の一つにもなった、壮大で美しい城壁がよく知られています。この城壁にはいくつかの門があり、現在でも、旧市街の中に入るにはいずれかの門を通過しなくてはなりません。

この記事では、ドゥブロヴニクの城壁の門について、それぞれの特徴や歴史をご紹介します。


目次


ピレ門

ピレ門といえば、ドゥブロヴニク旧市街へ旅行する際、誰もが一度は耳にし、実際に通過する、ドゥブロヴニクの表玄関。

門の前はバスターミナルになっていて、空港からのバスや、市内をつなぐ主な交通機関である路線バスの多くもこちらに停車します。

ドゥブロヴニクの門は、原則として二重構造になっています。ピレ門の外門はルネサンス様式のアーチを持つ半円形の要塞状の建物となっており、建造されたのは 1537 年。門のアーチの上にはドゥブロヴニクの守護聖人聖ヴラホが刻まれ、市内に入る人々の姿を見守っています。

門外には壕があり、これをまたぐ形でかけられた木造と石造りの 2 つの橋が、旧市街と門外のピレ地区をとをつないでいます。木造の跳ね橋は、中世のドゥブロヴニク共和国時代には、毎晩、きちんと巻き上げられていたそうですが、現在は常時降ろされており、いつでも通行可能。

石造りの橋の方は木造の橋より歴史が古く、最初に建造されたのは 1397 年。当時この橋は今よりも短く、橋梁のアーチは 1 つのみ。木造の橋はなく、旧市街と門外のピレ地区は石橋で直接連結されていました。

建造から 20 年後の 1417 年、門外の壕の拡張に伴って橋は拡張され、橋梁は 3 つのアーチを描くスタイルとなりましたが、その際も、石橋が市内、市外を直接連結するスタイルはそのまま保持されました。

これが現在の 2 つのアーチを持つ石橋と木造の跳ね橋というスタイルに変わったのは 1530 年代前半のこと。

防衛上の理由から、石橋のうち、ピレ門に一番近いアーチ 1 つ分が取り壊され、木造の跳ね橋に置き換わりました。ピレ門のデザインもこれに合わせて多少変えられ、巻き上げた跳ね橋を収納できようにした結果、今のデザインとなったそうです。


内門はゴシック様式のこぢんまりとした門。外門との間には段差があり、階段とスロープで連結されています。

出入り口は、外門、内門いずれも人が二人並んで通り抜けられる程度の幅しかないため、万が一的に侵入されても、この階段部分でつっかえてしまいます。敵がここにとどまっている間に、上から石や矢、熱した油などで殲滅できるようになっている、防衛上の仕組みなのです。

なお、このスロープの途中にもう一つ、門外の壕に続く小さな通用門があります。通用門というより、壁に開いた穴のようなものですが、ピレ門下の小さなビーチへの抜け道です。

こちらの通用門を抜けると、まず城壁を取り囲む壕に出ます。今はここに小さな公園があり、よく地元の人が子どもを遊ばせている、市民の憩いスペース。

公園を海の方へ向かい、石橋のアーチをくぐり抜けるとその先は小さなビーチ。こちらはシーカヤックツアーの発着点として利用されていますが、ツアー参加者以外でも、普通に景色を見に行ったり、通行したりして大丈夫。

シーカヤックツアーは非常に楽しいので、アクティブな方には全力でおすすめ。個人的にはいつもこちらの会社のツアーに参加しています → Adventure Dubrovunik 
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プロチェ門

プロチェ門はドゥブロヴニク旧市街の東側の門で、ドゥブロヴニク共和国時代には、防衛上、格別な重要性を持っていました。オリエント、特にオスマン帝国からの貿易キャラバンがドゥブロヴニクを訪れる際に利用していたのがこのプロチェ門だからです。

さて、プロチェ門は、ピレ門と同じく二重構造になっており、内門は、以前は近くの教会の名をとって聖ルカ門と呼ばれていたそうです。この内門は城壁の一部を要塞化したアシモン要塞の一部になっており、こちらも、門の外には深い壕。

壕をまたぐ形でかけられた石橋、およびさらにその先、外門とプロチェ地区をつなぐ石橋は、ピレ門前の石橋と同じくパスコイェ・ミリチェヴィッチがデザインを担当しています。そのため、手すりや両脇のベンチなど多くの共通点がみられます。

内門自体は非常にこぢんまりとしており、幅はたったの 2m しかありません。ロマネスク様式の門の上には、ドゥブロヴニクの守護聖人、聖ヴラホ像が刻まれています。この門を抜け、旧市街中心地へ向かうと、ドゥブロヴニクのこの部分は、特に都市防衛戦略が色濃く反映された作りになっていることが見て取れます。

一度に 2 〜 3 人しか同時に通行できない小さな内門を抜けると、切り立った壁に挟まれた狭い通路に出ます。

この部分はアシモン要塞、ドミニコ会修道院(※有事の際は要塞として機能するようになっています)、城壁に三方を固められた形になっており、ここに敵軍が侵入した場合は、逃げ込む路地も、建物もない場所で、頭上、および壁面に開いた銃眼からの攻撃にさらされることになるのです。

幸い、実際のところは、敵にここまでの侵入を許すような事態は発生しませんでした。中世は独立国家としてアドリア海を制したドゥブロヴニクですが、滅亡のきっかけはフランス帝国軍によるだまし討ち。武力併合ではなかったのです。

さて、プロチェの外門は、現在は考古学展示場となっているレヴェリン要塞と一体化しています。

レヴェリン要塞は、かつて砲弾や釘などを鋳造する鋳造所を兼ねており、有事の際は要塞、通常時は工場のような形で市内の経済に貢献していました。

船で訪れる海外からの訪問者にとっては、こちらの方がメインゲートのようなものだったため、外門であるレヴェリン要塞は非常に堅牢、見るからに頑健な作りです。こちらも旧市街の鉄壁の守りの重要な拠点となっていました。

レヴェリン要塞から旧市街外へは、ピレ門と同様、木造の跳ね橋がかかっており、こちらもドゥブロヴニク共和国時代には毎晩巻き上げられていたそうです。
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ポンタ門とペシュカリヤ門

ポンタ門、ペシュカリヤ門はいずれもドゥブロヴニクの旧市街から旧港へと続く門です。門というよりも、城壁についた出入り口、という控えめな風情ですが、どちらも、ドゥブロヴニク共和国時代から残る由緒ある門。

ストラドゥン(プラツァ通り)の先にあるのがペシュカリヤ門、オド・プチャ通りの先にあるのがポンタ門です。ちなみに、どのガイドブックにも載っている有名カジュアルレストラン、ロカンダ・ペシュカリヤがある方がポンタ門、反対側がペシュカリヤ門。

なお、ペシュカリヤというのは漁師、ポンタは埠頭という意味です。なお、旧港の埠頭付近、聖イヴァン要塞近くにも、もう一つ、さらに小さな通用門があります。
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ブジャ門

ブジャ門は、ドゥブロヴニク旧市街の北側にある小さな門。

この門は現存する  箇所の門のうち最も新しく、作られたのはオーストリア・ハンガリー帝国統治時代の 1908 年。当時、二重になった城壁の間の壕の部分にテニスコートが作られており、帝国軍の将校達がここを利用しやすいように、という理由で城壁をくりぬいて門としたそうです。

とは言っても、実は、現在のブジャ門あたりの城壁に穴を開け、門を作ろうという案自体は、500 年ほどさかのぼる 15 世紀、ドゥブロヴニク共和国時代からあった意見。しかし防衛上の配慮から、ドゥブロヴニク共和国が滅亡し、城壁が本来の「ドゥブロヴニク共和国を守る」という存在意義を失うまで、この案が実現されることはありませんでした。

なお、15 世紀の城壁建造案については、この案の見送りにまつわる、面白いエピソードがあります。

中世のドゥブロヴニクは、アドリア海における海上貿易の要所にあり、周辺各国からの侵略に常に備えておく必要がありました。中でもヴェネツィア、ジェノア、アンコナなどとは、同じ海域でしのぎを削りあう間柄。これらの国との間で、熾烈な競争と外交上の駆け引きが繰り広げられていたそうです。

そんな状況下で、市民生活の利便性の向上を目的に、城壁の一部に穴を開け、物資の運搬や交通のための通用門を作る案が持ち上がります。確かに便利にはなるでしょうが、侵入経路が増えるのですから、これは防衛上の脅威となる可能性もありました。

思案したドゥブロヴニク政府は、当時の都市計画作りの世界的権威 2 人をドゥブロヴニクに招聘。慎重な検討を行うことにします。

この時招聘されたこの専門家 2 人は、それぞれに綿密な調査、検討を実施。しかし、最終的には 2 人が口をそろえて、「新しい門の建造はドゥブロヴニク市民生活の利便性向上につながる。建造を推奨する」という結論となりました。

さて、この結論を受けたドゥブロヴニク政府はどうしたでしょうか?

実は、この専門家達を丁重に送り出した翌日、ドゥブロヴニク政府はこのような発表を行っています。

「この度招聘した専門家は 2 人とも、新しい門の建造はドゥブロヴニク市民市民の生活にとって望ましい効果をもたらす、と結論づけました。故に、万が一に備え、新しい門の建造は見送りとします。」

なぜ、ドゥブロヴニク政府は、調査結果の真逆をいく、このような決定を行ったのでしょうか?その秘密は、この専門家達の出身地に隠されています。

この 2 人、実はそれぞれ、アンコナとジェノアの出身。つまり、あえて敵対国から専門家を招聘し、調査させることで、さりげなく敵国の本音を引き出し、判断に利用したということなのです。卓越した政治・外交手腕で知られたドゥブロヴニク共和国らしいエピソードですね。
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