ドゥブロヴニク旧市街の観光スポット: ドミニコ会修道院

ドミニコ会修道院はプロチェ門近くにあり、特徴的な手すりのついた古い階段を登った先の、奥まった一角にあります。
入り口は小さいのですが、中に入ると意外と広々とした空間が広まっていて、旧市街の反対側のフランシスコ会修道院と似た、美しい回廊もあります。

今は平和で静かなこちらの修道院ですが、以前はドゥブロヴニクの防衛の拠点だったことも。
この記事では、そんなユニークなドミニコ会修道院についてご紹介します。


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ドゥブロヴニクのドミニコ会修道院

ドミニコ会修道院は、旧市街の反対側の端にあるフランシスコ会修道院とよく似た構造で、フランシスコ会修道院とペアで旧市街の東西の双翼をなすような位置にあります。
ただ、フランシスコ会修道院の方は城壁とくっついて、すぐ外はピレ門ですが、ドミニコ会修道院の方は、プロチェ門との間にちょっと距離あり。

そして、プロチェ門との間は、飾り気がなく、銃眼はあっても窓や出入り口のほとんどない、いかめしい壁が両脇に切り立った通路になっています。
その様子は、修道院にはとても見えず、まるで要塞の一部であるかのようです。

それもそのはず。
この要塞のような外見は単なる見かけだおしではなく、いざという時の都市防衛に役立つよう考えられた実用的なものなのです。
実際、18 世紀には、武器の格納庫として利用されたこともあるそうです。

ドミニコ会は、修道院としてここで数百年にわたって活動を続けてきており、文化、哲学の発展に重要な役割を担っています。

ドミニコ会がドゥブロヴニクで活動を始めたのは 1225 年あたりだと言われています。
当時は小規模で、現在のように大規模な修道院を持っていたわけではありません。
修道院の建物の原型ができあがったのは、ずっと後の 14 世紀に入ってから。

そして、ドゥブロヴニクのほとんどの建造物と同様、ドミニコ会修道院も幾度とない再建、改築を繰り返してきています。
ほぼ現在に近い形にまとまったのは 15 世紀、宝物庫や回廊などができた時のことだそうです。

都市防衛戦略とドミニコ会修道院

ドミニコ会修道院は、旧港からプロチェ門へと続く通りの西側にあります。

そして、この通りに面する部分は、装飾も、入り口や窓の類がほとんどみられない、切り立った高い壁になっています。
知らずにここを通れば、この壁の内側に教会があるとはとても思えない、無機質で取りつく島のない印象なのです。

プロチェ門は、ドゥブロヴニク旧市街の東側にあり、東方からの貿易商がメインで利用していた入り口。
海路、陸路ともにアクセスが便利な分、この部分が陥落すれば、ドゥブロヴニク市内への陸路・海路両方のアクセスを勝ち取ったも同然となる、防衛戦略上の要所なのです。

このプロチェ門に近い大型の建築ですので、こちらは修道院とはいえ、必然的に都市防衛戦略が色濃く反映されたものとなっているのです。
実際に有事の際は要塞として利用できるように設計されており、建築物としては、独立した建物というより、ドゥブロヴニクの城壁の一部とみなされています。

ドミニコ会修道院の見どころ

教会内部の装飾

ドミニコ会修道院内部にある聖ドミニコ教会は、外観と対極的に、豪華な装飾が施された空間になっています。

主祭壇には 14 世紀に作成されたパオロ・ヴェネツィアノの手による、ビザンチン・ゴシック様式のキリスト磔刑画。
十字架を取り囲むように 4 人の使徒、足元には、嘆き悲しむ聖母マリアと聖ジョセフの姿が描かれた美しい絵です。

また、このほかにも、クロアチアを代表する画家、イヴォ・ドゥルチッチやヴラホ・ブコヴァッツの絵画、イヴァン・メストロヴィッチ作の彫刻とレリーフなども収蔵されていて、見どころのひとつとなっています。

回廊と中庭

ドミニコ会修道院の回廊と中庭は 1456 〜 1483 年の間に、フィレンツェの建築家、マッサ・ディ・バルトロメオのデザインに基づいて、ウティシェノヴィッチ、グルバチェヴィッチ、ラドマノヴィッチらを初めとする地元の職人が作り上げたもの。

ゴシック様式とルネサンス様式が見事な調和した回廊が、美しく装飾された井戸のある中庭を取り囲む様はまさに旧市街の中のオアシスとも言える存在になっています。

ナポレオン率いるフランス軍によってドゥブロヴニクが占領された時代、ドミニコ会修道院は軍用馬の厩舎として利用されていた時期があります。
回廊にはこの時の名残がのこっており、よく見ると、当時使用された飼い葉桶の名残を今でも確認することができます。

墓石

ドミニコ会修道院は、ドゥブロヴニク要人の墓地も兼ねています。

入り口から中に入るときに、足元の石畳をよく見てみてください。
名前と、日付らしき文字が刻まれた石がはめ込まれているのがわかるはず。
それらがお墓です。

日本ではちょっと考えられないことですが、西洋の教会などでは、要人を教会の床に埋葬する風習は割と一般的に見られます。
聖人のそばに葬られたいという希望の表れだそうで、多額の喜捨をもって、教会の床の区画をゲットする行為もよくあったそうです。

お墓を踏みつけるというのは日本的感覚だとなんだか気がひけますが、そこは気にならないようなのでご心配なく。

ちなみに、これは、ドゥブロヴニクに限ったことではなく、ヨーロッパの多くの教会で見られる風習。
もしかしたら皆さんも、旅行先で、知らないうちに要人のお墓を踏んづけて回っていたかもしれません。

博物館

ドミニコ会修道院には博物家が併設されていて、貴重な古書、絵画、工芸品などが展示されています。
主な展示物には、次のようなものが。

絵画:

ニコラ・ボジダレヴィッチ(Nikola Božidarević)、ミハイロ・ハムジッチ(Mihajlo Hamzić)、ロヴロ・ドブリチェヴィッチ(Lovro Dobričević)ら、ドゥブロヴニク共和国の画家の作品に加え、ドゥブロヴニク大聖堂の聖母被昇天図を描いたイタリアのティツィアーノの作品も見ることができます。

工芸品:

ドゥブロヴニク共和国、およびイタリア等の工房で製作された金、銀、珊瑚などのジュエリーや聖具、聖御物などの工芸品が数多く展示されています。
展示物にも含まれる「ボタン」と言われる金属のボール型のジュエリーは、ドゥブロヴニク市内外の宝石店、お土産店などでレプリカが販売されていて、お土産としてとても人気があります。

 教会入り口へ続く階段

ストラドゥン(プラツァ通り)からプロチェ門へ向かう通り、聖ドミニコ通り(Ulica Svetog Dominica)に入ると、道が途中で枝分かれしていて、片方が階段になっています。
この階段の先に、ドミニコ会修道院があるのですが、注目したいのはこの階段の手すり。

手すりをよくみると、下から 3 分の 1 ほどの高さまで、手すりの隙間にカーテンのような薄い石の幕が作られています。
これ、実は、階段を登る淑女方のドレスの裾から、うっかりおみ足が見えてしまったりすることがないよう、作られたもの。

中世においては、女性の足首が見えるのは不謹慎だったのだそうで、淑女方の尊厳と名誉を守らねば!!ということでこうなったそうです。

地元友人 1
でもさー、その当時って、胸元が ガバァッ! って開いてるドレスはオッケーだったんだよね〜
足元隠してる場合じゃないよね〜

まあ俺はそっちでも文句ないけどね〜
地元友人 2
今はスカートが短くなってるから、もう柵の隙間全部埋めないと意味ないね
管理人
君たちはいったい何を言っているんだ…
男子部、ほんとどこの国いってもたいがいやな

 教会南側の入り口と階段

この修道院の大きな特徴となっているプロチェ門へ続く外壁には装飾がなく、堅牢な壁はまさに要塞そのもの。
ただ、南側に一箇所入り口があり、この入り口が非常に美しいです。

上部のポータル部分は、1419 年にミラノの職人、ボニーノによって付け加えられたもので、ロマネスク様式の装飾が施されています。
入り口に続く半円形の階段は優美な曲線で構成され、周囲の質実剛健で直線的な雰囲気との対比により独特の美しさが生み出されています。

回廊と井戸

ドミニコ会修道院には、フィレンツェの建築家、マソ・ディ・バルトロメオ(Maso di Bartolomeo)がデザインした、ゴシック様式の美しい回廊があります。

この回廊の真ん中には 14 世紀に作られた井戸があり、これは今も現役で使うことができます。

この井戸、1991 年、ドゥブロヴニク独立戦争時にドゥブロヴニクが包囲され、ユーゴスラヴィア軍からの苛烈な砲撃にさらされていた時代、旧市街に閉じ込められた人々の命の水を提供した井戸です。

ドゥブロヴニクが包囲され、飲料水の供給が断たれた後は、毎日数時間、この井戸から水を汲み上げて、必要な人に提供する作業が続けられたそうです。
この厳しい時期を耐え抜いた旧市街の人々の約半数が、ここから汲み出された水に飲料水をたよっていたと言われています。

アクセス

ストラドゥン(プラツァ通り)をプロチェ門の方へ進み、スポンザ宮殿の脇の小さなトンネルをくぐって、坂の方に向かいます。
左手の小さな階段をのぼった奥に、教会および博物館への入り口があります。

プリェコ通りからアクセスする場合は、旧港の方へ向かって、突き当りの小さな教会、聖ニコラス教会まで進みます。
この聖ニコラス教会の左脇、ちょっと階段のある細い道と、その先にトンネルがあるので、このトンネルを抜けます。
抜けた先、左手にドミニコ会修道院の教会と博物館の入り口があります。

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