​ドゥブロヴニク旧市街の観光スポット: 聖イグナチオ教会

ドゥブロヴニク旧市街、総督邸にほど近く、午前中に開かれる市場が人気のグンドリッチ広場。この広場の南端に、美しいバロック様式の階段があります。

この階段を登った右手にあるのが聖イグナチオ教会、正面にあるのがコレギウム・ラグシウム(Collegium Ragusinum)、元はイエズス会の学校で、今は中学校になっています。


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聖イグナチオとイエズス会

聖イグナチオの本名はイグナチオ・デ・ロヨラ(Ignacio López de Loyola)、カスティーリャ王国(現スペイン)領バスク地方出身の修道士。
戦国時代、日本にキリスト教を布教しに訪れたフランシスコ・ザビエルらと共に、イエズス会を創始したメンバーの一人です。
イグナチオ・デ・ロヨラはまた、イエズス会最初の総長でもあり、死の 66 年後に列聖されました。

カトリック改革の始まる直前に結成されたイエズス会は、「神のより大いなる栄光のために」をモットーとして掲げ、ローマ教皇への盲目的な服従を軸にし、清貧・貞潔の誓いなど高い志で知られました。
また、大学と高等教育機関の運営にも力をいれており、ルネサンス後期のヨーロッパに大きな影響をもたらしたと言われています。

創設直後から数十年で急速に拡大したイエズス会。
しかし、時まさに大航海時代。植民地からの搾取と奴隷貿易がヨーロッパに巨万の富をもたらしつつあった時代において、イエズス会は先住民の権利を主張。
奴隷制に反対する姿勢をとりました。
また、その主張に基づいてキリスト教に改宗した先住民の保護を開始し、植民地主義の権利者にうとまれるようになります。

教皇の権力の衰退と絶対王政の発達に伴い、教皇に絶対的服従を誓うイエズス会は次第に弾圧の対象となっていきます。
1700 年代後半にはついに教皇に対し列強が圧力をかけ、教皇がイエズス会を禁止する事態となりました。

とはいえ、イエズス会の高い学識を評価し保護する権力者もおり、イエズス会は細々とながらも活動を存続していくことに成功。
20 世紀に入って禁を解かれ復興を果たした現在では、イエズス会は世界で二番目に大きい男子修道会となっています。

ドゥブロヴニクの聖イグナチオ教会

聖イグナチオ教会は、ドゥブロヴニクのバロック建築を代表する美しい建築として知られています。

この教会の建立にあたっては、まず、イエズス会の招聘からプロジェクトが始まりました。
記録によると、イエズス会設立からたった 20 年ほどしか経っていない 1555 年、イエズス会をドゥブロヴニクに招聘したいというリクエストが行われたことがあるそうです。

このリクエストはこの時は実現しませんでした。
しかし、その後約 60 年ほど経って、自らもイエズス会員だったマリン・ドゥルジッチ、および当時のドゥブロヴニク総督によって、イエズス会の教会と学校を設立するプロジェクトが始動。
この場所にあった住居を買いあげて更地にし、広場、教会、大学を作ることとなりました。

1667 年の大地震の影響で、プロジェクトは一旦中断を余儀なくされます。
しかし 1699 年になって、これもイエズス会員だった建築家/画家、イグナチオ・ポッソ(Iganzio Pozzo)が招聘され、プロジェクトは再開。1725 年、無事完成の日を迎えることとなりました。

さて、ドゥブロヴニクの聖イグナチオ教会は 1 列のネイヴの両脇に副祭壇の並ぶ様式。
内部はフレスコ画で装飾され、半円形のアプス、内外を飾る精緻な彫刻と相まって、荘厳な美しさを醸し出しています。

また、個人的には、教会に入ったすぐ右手にある祭壇のマリア像を是非ご覧いただきたい。
とても美しく、かつ独特の雰囲気があり、地元の皆さんに愛される理由が一見してよくわかるマリア像です。

イエズス会の教育機関、コレギオ・ラグシヌム

コレギオ・ラグシヌムは、聖イグナチオ教会と一緒に、イエズス会の教育機関として建立されました。

教会に比べるとずっと装飾が少なく、地味な見た目の建物で、華麗な彫刻や柱で装飾された教会とは対極的な雰囲気があります。
清貧をよしとしたイエズス会の学校とわかると納得ですね。

現在では、このコレギオ・ラグシヌムの建物はキリスト教系の中学校となっており、たくさんの子供たちが日々ここでせっせと勉強をしています。
…と言いたいところですが、地元の友人の話では、入学の時は純粋だった子供たち、この学校に入り、思春期を迎えると、卒業する頃にはすっかりヘヴィ・メタル好きの反抗的な若者になっているのが典型的なパターンなんだとか。

こんな歴史ある美しい建物が自分の学校だなんて、素敵だなぁ…というのは部外者のセンティメント。
これが当たり前の環境で育つと、子供はやっぱり普通の子供らしく色々な方向に育つようです。それもまた、人間らしくて素敵なことですね。

アクセス

ドゥブロヴニク旧市街のメインストリート、ストラドゥン(プラツァ通り)に並行して走る細い道、オド・プチャ通り(Ulica od Puča)をピレ門から旧港の方向に向かって直進します。
通りの一番最後まで来ると、右手にグンドリッチ広場、正面に総督邸が見えてきます。

右折してグンドリッチ広場に入り、正面の階段を登っていきましょう。
登りきった正面にはコレギオ・ラグシヌム、右手には聖イグナチオ教会があります。
なお、余談ですがこの階段、ゲーム・オブ・スローンズ(Game of Thrones)ファンには外せないロケ地の一つ、セルスィ(日本語だと「サーセイ」ってい書いてあることが多いみたいですね)の Walk of Shame の場面の撮影が行われたところです。

教会ですので、扉が開いていればいつでも入ることは可能です。
中でお祈りをしている人もいるので、ぜひ静かに見学なさってください。

なお、教会はだいたいどこでもそうですが、こちらにも入り口に寄付箱があります。
この教会が美しい姿をこの先もずっと維持・管理するお手伝いをしたい方や、観光客が見学に来るのを受け入れてくれる地元の信者さんへの感謝を表したい方、神社でお賽銭をあげるのと同じような気持ちで小銭など箱にいれてくるといいかもしれません。

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