ドゥブロヴニク周辺の日帰り観光スポット: ペリェシャツ半島 ストン&マリストンの牡蠣

ストンとマリストンは、ペリエシャツ(Plješac)半島の入り口の両端にある小さな街。ヴェリキ・ストン(大きいストン)とマリ・ストン(小さいストン)でペアのようになっています。ドゥブロヴニクからは距離にして 60 km 程度、郊外行き路線バスで約 1 時間ほど行ったところにあります。

ストンには、数千年の歴史を持つ塩田や、世界有数の長さの城壁もありますが、クロアチアで「ストン」と言えば、何をおいてもまず「牡蠣」。質のよい牡蠣、そしてムール貝の産地としてクロアチア全土のみならず、ヨーロッパ中の食通によく知られています。


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ストンの牡蠣とは

ストンの牡蠣は、マリストンに面するマリストン湾で養殖されている、この地域の名産品。

牡蠣の種類としては、日本でメジャーなマガキではなく、ブロン種(Ostrea edulis、ヨーロッパヒラガキ)という、丸く、平べったいものです。
これ、希少価値が高く、フランスなどではマガキの数倍の値段で提供される高級品!

実はこのヨーロッパヒラガキ、1970 年代ごろまで、ヨーロッパで「牡蠣」といったらこれ、というほど普及していた種類。
しかし、病気でほぼ全滅してしまい、もともとの生息地でそのまま生き残っているものはほとんどありません。

そのごくわずかな例外が、このストンの牡蠣なんです。

牡蠣とムール貝の養殖が行われるマリストン湾は、緑豊かな森に囲まれ、石灰石の層でろ過された清らかな真水が常に水質を良好な状態に保っています。

昔ながらの製法で手塩にかけて育てられた牡蠣は、クロアチアのみならずヨーロッパの食通の間でも人気の逸品。
自然なミネラルの豊かな風味と、海水を感じさせる塩み。地産のワインと一緒にいただくと、もう止まらなくなります。

ストンの牡蠣 養殖の歴史

養殖の始まり

マリストン湾における牡蠣の養殖は非常に長い歴史があります。
なんとローマ時代には、樫の枝を養殖筏として利用した原始的な養殖が始まっていたそうです。

現存する最古の文献は、17 世紀、ドゥブロヴニク共和国時代の牡蠣の収穫や販売の記録。
18 世紀の文献になると、牡蠣の養殖許可に関する書類や、当時の牡蠣の養殖手順の説明書、養殖に携わる業者についての記録などもあるそうです。

近代的なシステマチックな養殖業が始まったのは 19 世紀末。
そして、早くも 1936 年には、ロンドン万博において、ドゥブロヴニクの業者がマリストン産の牡蠣でグランプリ、金賞を受賞するという快挙を成し遂げます。
これをきっかけに、ストンの牡蠣がヨーロッパの食通の間で知られるようになりました。

戦乱による被害と現在の状況

こうしてブランドを確立したストンの牡蠣ですが、第二次世界大戦からクロアチア独立戦争へと続く戦乱の時期、ほぼ壊滅に近いレベルまで落ち込んでしまいます。
ユーゴスラビア紛争の際には資材や設備の多くが破壊されたり略奪されたりし、養殖業に従事する業者もほとんど撤退してしまったためです。

そして、一度は途絶えかけたストンの牡蠣の養殖ですが、戦後、徐々にまた息を吹き返します。
ただ問題は、この過程で、正規の事業許可を持たない違法業者が増えてしまったこと。

まず、戦乱によって正当な事業許可を持つ業者が短期間で激減したため、産業にぽっかり穴が開いたような状態が作られてしまいました。
そしてその穴を埋める形で多くの事業者が新規参入してきたのですが、正規の事業許可が取得できないまま、生活のためにとりあえず操業を開始するケースが続出してしまったのです。

とは言え、これは、許可を得ていない業者の牡蠣の品質が悪い、ということを意味するわけではありません。

クロアチアの法手続きは非常に煩雑、かつ高額になることが多いことで知られています。
そのため、真っ当に申請をしてもなかなか許可がおりなかったり、進まなかったりすることも、まあよくある話なのです…。

もちろん、全て正しく行われるのが理想ではあるのですが、この辺りは徐々に改善されていくのを気長に待つしかなさそうですね。

伝統が残る養殖手法

マリストン湾では、ドゥブロヴニク共和国時代とそう大きくは変わらない、伝統的な養殖方法がほぼそのまま残り、守り続けられています。

さて、牡蠣という生き物は、まず卵で生まれ、孵化したら海中を浮遊して、しばらくしたらどこかにくっついて育ちます。

日本ではこの習性を利用して、ホタテの貝殻をワイヤーに取り付けて海に垂らしておき、くっついてきた子ガキを採取します(「採苗」といいます)。
そして、採苗した子ガキをまず比較的浅い場所の棚で育て、ある程度大きくなったら、沖合いの深い場所の筏に移して育てています。

こうして成長した日本の牡蠣は、ワイヤーについた牡蠣の総重量が数百キロにもなるので、収穫にはクレーンを利用し、一気にすべて収穫します。

これに対し、マリストンでは、まず海中にネットを沈め、牡蠣がくっついてきて、勝手に育つのを待ちます。

1 年たったらネットを引き上げ、くっついている牡蠣の中からよい大きさのものを選んで外し、用意した別のロープにセメントで固定します。
大きさが足りないものは、ネットにくっつけたまま海に戻します。

ロープに固定された、大きめの牡蠣は養殖筏に移し、 そのまま2 年ほど育てます。
2 年たったらロープをあげて、ほどよい大きさに育ったものを外して、残りはまた海に戻して、大きくなるまで育てていきます。

つまり、マリストン湾で育つ牡蠣は、ほどよく成長して出荷されるまでに、何度か引き上げられ、人の手と目で成長を確かめられて、まだ小さいな〜と思ったらまた海に戻されて…というプロセスを繰り返すわけです。
このやり方は当然手がかかるのですが、ストン、マリストンで牡蠣に関わる仕事をしている皆さんの口ぶりでは、その手間を誇りに思っているようです。

管理人
手作業で、人間がちゃんと手と気をかけて育てる、というところに職人的な誇りを感じる人が多いみたいです!

こういう価値観、こういう考え方、大好き。

なお、ドゥブロヴニク共和国時代と今とで違うのは…

  • 採苗の際、以前使っていた木の枝の代わりに、ネットを使うようになったこと
  • ロープに牡蠣をくっつける際、卵と塩の混ぜ物の代わりに、セメントを使うようになったこと

…この 2 点くらいで、後は何も変わらないということでした。

管理人
むしろ、昔は卵と塩の混ぜもので、ちゃんと牡蠣が海中でロープに固定できていたのがすごい!

ちなみに、上述の通り、ヨーロッパヒラガキは一度絶滅寸前まで行ってしまった希少種。
今では市場に出回る牡蠣の 1% 程度にしかならず、ほかの牡蠣はほとんど、日本のマガキ、またはその子孫なんです。

昔、マリストン湾でも、実験的にマガキを育ててみたことがあったそうですが、マガキが強すぎてヨーロッパヒラガキを圧倒してしまう結果に!
この結果をうけ、もうマガキの養殖は行わず、ヨーロッパヒラガキのみの養殖でやっていくことになったそうです。

よくある質問

食あたりの心配は?

牡蠣の食あたりの発生の決め手になるのは鮮度ではなく生育海域の水質。
マリストン湾は水質が非常によいため、基本的にはあまり心配しなくて大丈夫です。

実は、牡蠣は鮮度さえよければ生食できるわけではありません。
生食用と加熱用を分けているのは、鮮度ではなく、その牡蠣が育つ海域の違いなのです。

牡蠣は、あの小さな体でなんと 1 日あたり約 400 リットルもの海水を濾過し、濾し取った成分を餌にして成長します。

そのため、有害物質の含まれない海域で育った牡蠣は安全に生食できるのに対し、有害物質の多い海域で育った牡蠣は食あたりどころか、ひどい場合はそもそも食用にすらなりません。
日本でも、生食用の牡蠣は限られた指定産地のみで育てられており、指定海域以外のものは、とれたての新鮮なものでも加熱用として出荷されます。

そしてマリストン湾は、ヨーロッパトップクラスの水質を誇るアドリア海のなかでも、特に水質がよいとされている海域にあたります。
マリストン湾には、天然の濾過フィルター、石灰岩の大地を通って磨き抜かれたディナルアルプスの雪解け水が豊富に流れこんでおり、水質を常に良好に保っているためです。

その上、周囲には大規模な居住地もなく、あるのは森と、比較的小規模なブドウ畑、オリーブ畑くらい。牡蠣の餌となる植物性プランクトンも豊富に生育する、生食用牡蠣の養殖に理想的な環境が整っています。
また、衛生検査もしっかりと行われており、安全を確認してからの出荷が徹底されています。

もちろん、体質や、提供するお店の衛生状態、保存状態や期間にもよるので絶対とは言えませんが、生牡蠣を楽しむ場所としては抜群の、理想的な環境だと言えるでしょう。
筆者個人的には、下手な日本のオイスターバーより安心して食べられるように思います。

どこで食べられる?

ストンの牡蠣は、ストン、マリストンはもちろん、ドゥブロヴニクやツァヴタットなどのシーフードレストランでかなり広範囲に提供されています。

マリストンでは、牡蠣ツアーのようなものもあって、小舟に乗って養殖筏まで行き、海から引き上げたその場で牡蠣を食べられる場所もあります!

管理人
天国か!

おすすめの食べ方は?

おすすめというか、現地では、ほぼ生食一択です。
火を通す料理はほぼなく、オイスターチャウダー、カキフライなどが全くないわけではないものの、限りなくゼロに近いくらい珍しいです。

ヨーロッパヒラガキは、名前の通り平べったくて、日本でよく見るタイプのぷっくりした牡蠣のクリーミーさはありません。
クリーミーさを捨てて、牡蠣の亜鉛っぽい味、濃縮した海水のような味、貝類らしい旨味に特化した牡蠣だと思うとわかりやすい!

火を通すと、たしかにこの良さが損なわれてしまうように思うし(美味しいけど)、…あと、ものすごく小さくなってしまいます!笑

管理人
ヨーロッパヒラガキ(生)、お酒にあうんですよこれが!!
地元友人
ほんと美味しいから、バケツ一杯あっても余裕でいけるね!
なんだったらワインもバケツで飲みたい…

この辺りはレモン、オレンジ、タンジェリンなどもたくさん採れる(そこら中に生えている)ので、地元の牡蠣に地元のレモンをぎゅーっと気前よく絞って、つるっといただくと、本当にサッパリとして、海そのものを食べているようで美味しい!

また、クロアチアで人気の(=どこででも当たり前に手に入る)白ワインは、海に近い石灰岩の傾斜地で育てられた地元品種の、酸味やミネラルがしっかりあり、柑橘系の香りのあるドライなタイプが多いです。

これがこの牡蠣、ヨーロッパヒラガキのミネラル感が全面に押し出された味と絶妙に合うんです…!!!

ポシップ、グラシェヴィナ、グルクあたりはまさに鉄板。
ドゥブロヴニク周辺の土着種、マルヴァシヤ・ドゥブロヴァチュカ、それにプラヴァッツ・マリを使ったロゼなども、ものによってはとてもよいです。

管理人
ものすごく生産量が少なくて、ほとんど流通していないので実現難しいかもですが、コナヴレ産のグラシェヴィナのスパークリングと合わせた時は、あまりのベストマッチっぷりに、もういっそクロアチアに骨を埋めてもいいという気持ちになりました

特に、ストン、マリストンからさほど遠くないコルチュラ島原産の土着種、ポシップ、グルクは、牡蠣との相性ばつぐんです。
クリーミーな牡蠣とワインのペアリングとはまたちょっと違った方向性のマリアージュになるので、ワインと牡蠣が好きな方、ぜひ、ぜひお試しを…!!!

おそらく、ヨーロッパ広しと言えども、ヨーロッパヒラガキを 1 つ 200 〜 400 円くらいのレンジでもりもり食べられる場所はほとんどないはず。
しかも、地元でその牡蠣にベストマッチなワインも作っている場所となると、ここしかないんじゃないかと思います。

ドゥブロヴニクに行って、ちょっと時間があったら是非ストン、マリストンへ!

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