ペリェシャツ半島のワイン: Wines in Pelješac Peninsla

ペリェシャツ半島は、ドゥブロヴニクから車で約 1 時間ほどの場所にある自然豊かな半島。知名度はまだまだですが、ヨーロッパ有数の長大な城壁、食通の間でよく知られた牡蠣とムール貝、1000 年以上続く伝統技法で作られるまろやかな塩、独特の地形を活かし固有種で作られるワインなど、見どころや魅力がたくさんある穴場です。

まだ観光地化もさほど進んでおらず、クロアチア海岸沿いのダルマチア地方の地方都市ののどかな魅力をギュッと濃厚に味わうことができます。今回は、そんなペリェシャツ半島の魅力の一つ、ワインについてご紹介します。


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iStock. by Getty Images ポートフォリオ: marimjx
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ストンの城壁から見下ろすマリストン

ペリェシャツ半島のワイン生産:概要

ペリェシャツ半島は、東西には 65 km に渡って伸びる傍ら、幅はたったの 1.5 km ほどしかない、非常に細長い形をしています。そして、こんなに細長いのに、最高峰は 961 m(神戸の六甲山より 30 m ほど高いくらい)、全体的にとても傾斜のきつい土地です。

ペリェシャツ半島の西端部分、ペリェシャツ海峡をはさんですぐ目と鼻の先には、マルコ・ポーロ生誕の地とも言われ、クロアチア最後のワイン生産地の一つでもあるコルチュラ島。このコルチュラ島と合わせて、ペリェシャツ半島にはワイナリーがたくさん存在します。

傾斜がきつく、入り組んだ地形のペリェシャツ半島では、斜面の角度、標高、海との角度など、さまざまな要因により、隣り合わせの土地であってもわずかずつ気候が異なります。また、機械化も難しく、農地やブドウの手入れにより手間がかかります。

つまり、気候や土壌の条件がそろった場所で行われるような均質なワインの大量生産には向きませんが、その分、個性的でレアなワインが非常に多い。また、大量生産ができない分、高い品質や豊かな個性を追求し、根強いファンを獲得することがワイナリーの成功に直結するのです。

そのため、ディンガチ(Dingač)やポストゥプ(Postup)などのプレミアムワインを始め、独特の風味と香りがあり、クロアチア国内のみならず、世界のワインコンクールで高い評価を受けるワインを数多く世に送り出すユニークな場所となっています。
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Plavac mali - Dingac Potomje
プラヴァッツ・マリ – Image Credit: Pero Kvrzica via Flickr

主なブドウの品種: プラヴァッツ・マリ

ペリェシャツ半島といえば、まず名前のあがるブドウは、クロアチア国内で広く栽培されているプラヴァッツ・マリ(Plavac Mali)種。なんと、ペリェシャツ半島で栽培されるブドウの 90 % がプラヴァッツ・マリ!

プラヴァッツ・マリは、後にアメリカに持ち込まれ、「ジンファンデル(Zinfandel)」として広く知られるようになるクロアチア産ブドウ、ツルリェナク・カシュテランスキ(Crljenak Kaštelanski)種と、同じくクロアチア固有種のドブリチッチュ(Dobričić)種のハイブリッド。「青くて小さい」という意味の名前の通り、皮は青みががった黒。小粒で、タンニンの強い品種です。

一般的なプラヴァッツ・マリ種のワインの特徴としては、ドライな香りとボディ、そしてタンニンのきいた渋みがあげられます。しっかりした味わいで、コクが有り、単品でというより、食事と合わせることで魅力の引き立つワインといえるでしょう。

なお、プラヴァッツ・マリは通常の赤ワインだけでなく、ロゼ、そして天日干ししたブドウで造るデザートワイン、プロシェック(Prošek)の形でも楽しむことができます。
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Dingac wine from the Peljesac Peninsula, Croatia
Vinarija Dingač の Plavac Pelješac。同じラベルで Dingač や Postup もあります – Image Credit: D Smith via Flickr

プレミアムワイン: ディンガチとポストゥプ

ペリェシャツ半島で生産されるプラヴァッツ・マリ種のワインにはいくつか種類がありますが、最高級とされるのがディンガチ(Dingač)。続くブランドとしてポストゥプ(Postup)が挙げられます。両方とも、産地には EU の原産地名称保護制度が適用されていて、該当地域以外で作られたものには「ディンガチ」「ポストゥプ」という名前を使用することができません。

「ポストゥプ」のトップノーズにはリコリス(甘草)のような特徴的な香りがのり、ベリー系の香りもあって華やか。ボディは滑らかで、後に残るほのかなタンニンが後味を程よく引き締めてくれます。

最高級の「ディンガチ」はとても特徴的なワイン。プラヴァッツ・マリのベースを包括する、葉巻とラズベリー、ブラックベリー、ユーカリが溶け合ったような複雑な香り。上品でコクのある甘みを持ちながら、ドライで切れ味もよく、「ペリェシャツ」や「ポストゥプ」にない土っぽさを持ち合わせます。個性的なのにバランスがよく、しっかりした肉料理などにぴったりあうのは当然のこと、これは単品で飲んでも十分に楽しめるワインです。

さて、これらのプレミアムワインのもととなるプラヴァッツ・マリ、特徴的な味の秘密はその生育環境。ディンガチ、ポストゥプの土壌は石灰岩質で痩せており、場所によっては数百メートルもの高度差のある、最大傾斜 45 度という急斜面。吹き付ける強い海風は塩分を多く含み、遮るもののない斜面には直射日光、海からの照り返し、そして白い石灰岩からの照り返しが容赦なく照りつけます。伸びやかでエネルギッシュな風味、コクがあるのにドライな口当たりは、この厳しい環境があって初めて生まれるもの。同じプラヴァッツ・マリでも、この環境がなければ得られない個性なのです。

なお、こういった環境のため、伝統的に、農地へのアクセスは徒歩、そしてロバが活用されてきました。ペリェシャツ半島最大のワイナリー、その名も「ディンガチ・ワイナリー(Vinarija Dingač)」のワインラベルにロバがあしらわれているのも、この理由によるもの。ドゥブロヴニクを始め、クロアチア全土で手に入るので、ロバのラベルを見かけたら、ぜひ手にとって検討してみてください。
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Viator

 

代表的なワイン: ポシップ種(白)

代表的な品種として広く生産されるプラヴァッツ・マリ種の赤ワイン以外にも、ペリェシャツ半島では白ワイン、そしてわずかですがロゼワインも生産されています。

特に人気のある白ワインといえば、まず挙がるのはポシップ(Pošip)。ポシップは、ペリェシャツ半島の鼻先にあるコルチュラ島(Korčula)で発見され、栽培されるようになった固有種。コルチュラのスモクヴィツァ(Smokvica)およびチャラ(Čara)産のものが最も有名ですが、ペリェシャツ半島でも栽培されていて、ヴァラエタルとブレンド、いずれも人気があります。

数千年のワイン生産の歴史を持つクロアチアには、ギリシャ、ローマ時代からワイン生産に利用されてきた固有種が多く存在します。それでも、相当数が、 19 世紀頃、ヨーロッパのブドウを全滅寸前まで追い込んだフィロセキラ(ブドウネアブラムシ)禍で姿を消しました。このポシップは、そんな大災害の影響を受けることなく、コルチュラの山中にある小さな集落、スモクヴィツァで栽培されていたのが発見され、ワイン造りに使用されるようになったもの。

ポシップは結実から熟すまでの期間が短いタイプのブドウなのですが、このタイプのブドウとしては驚くほど強い甘みがあります。しかしただ甘いだけでなくキリッとした酸味もあり、ワイン生産に使用されるブドウとしては珍しく、普通にフルーツとして食べても美味しい。ポシップのワインは緑がかった金色、元の実の糖度が高いため、アルコール度数も 14 度前後と高め。イチジク、シトラス、アプリコット、アーモンドを連想させる華やかでフルーティーな香りがあり、爽やかな甘みを持ちながらキリッとドライ。そのまま飲んでよし、食事と合わせてよしのオールラウンダーです。食べ物と合わせるなら、パグ島のチーズやプロシュートなどやや癖と塩味のある食べ物、白身魚のグリル、牡蠣やムール貝と特にあうと言われています。
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Wine glasses
Image Credit: (Mick Baker)rooster via Flickr

その他のワイン

グルク(白)

固有種の多いクロアチアでも、グルク(Grk)はかなりレアな存在。まず、栽培数が非常に少なく、コルチュラ島と、ペリェシャツ半島のごく一部でしか育てられていません。地形的に限られている砂地を好む種である上、なんと、グルクには雌花しか咲かず、単独では結実しないのです。つまり、グルクを育てるには、他の種類のブドウと混植が必須。通常はプラヴァッツ・マリを一定間隔で植え込み、プラヴァッツ・マリの花粉を受粉することで実をつけさせます。

グルクの主な栽培地はコルチュラ島ですが、コルチュラでもグルクを栽培する農家はさほど多くなく、知名度もさほど高くないため、果たしてこの種がいつまで生き延びるかはまったく不明。クロアチアワインが少しずつ知られるようになるにつれ、外部からの投資が増え、結果的に、商業的に成功しやすい、よりメジャーなブドウを好んで栽培する風潮が生まれつつあります。せっかく素晴らしい固有種があるのに、これは残念なことですね。

ペリェシャツでは、そんな状況に異議を唱えるこだわりのワイナリー、クリジュ(Križ)がグルクを栽培してワイン生産を行っています。こちらのワイナリーは家族経営。伝統と、グルク栽培やオーガニックのプラヴァッツ・マリ生産など、新しいワイン生産を融合させて進化中。非常に興味深いワイナリーです。グルクは混植しないとならない分生産量が少なくなるため、作ったら作っただけ売れ、すぐなくなってしまうそうです。

さて、グルクのワインは緑がかった金色、とても爽やかできれいなワインです。ドライでしっかりしたボディがあり、最後にくるかすかな苦味がキュッと引き締まった爽やかな後味を残します。シトラスにハーブが加わったような香りは複雑かつまろやか。清々しい酸味があり、コクのある味わいをさっぱりとまとめ上げます。とてもユニークで美味しいワイン。少々お値段がはっても飲む価値ありです。
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マラシュティナ

マラシュティナ(Maraština)という、こちらもダルマチア固有種のワインも、ペリェシャツ半島で広く栽培されています。

こちらはペリェシャツ半島に限らず、ダルマチア全域で広く育てられていますが、それぞれの土地でブランド化されていて、ラストヴォ島(Lastovo)のものはルカタッツ(Rukatac)、クレス島(Kres)のものはクリゾル(Krizol)など、さまざまな名前で呼ばれています。熟すのに長い日照時間が必要で、長く日にさらされるほど黄色みと甘みが強くでます。

さて、マラシュティナはアルコール度数 12 度前後、酸味は少なめ、甘くてフルーティ、軽いといった特徴から「女性向き」と言われることも。ヴァラエタルも存在しますが、やはり甘いので、酸味の強い品種とブレンドされることが多いです。
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ロゼワイン(Rose)

ダルマチアでのロゼの生産量はかなり限られていますが、最近やや増加気味だそうです。ペリェシャツ半島では、通常は赤ワインの生産に使用されることの多いプラヴァッツ・マリのロゼバージョンも造られています。もちろん、ワイナリーによって個性はさまざまですが、ざっくりまとめると、甘みはしっかりあってもドライでスッキリ。プラヴァッツ・マリの赤ワインとも共通する、フルーティでベリー感のある華やかな香りと、濃いめのオレンジ系ピンクの美しい色を楽しむこともでき、なかなかおもしろいワインです。

個人的に、ロゼは色の綺麗さが一番の魅力で、味は今ひとつこれというものがないという印象だったのですが、プラヴァッツ・マリのロゼは意外と悪くないと思いました。カラッと晴れた日のランチタイムに、屋外のテーブルで、アドリア海を眺めながら、しっかり冷やしたロゼのグラスを楽しむ。なんというか、正しい休日のあり方だな〜という感じで、幸せな気持ちになります。
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Prošek
Prošek – Image Credit: cyclonebill via Flickr

プロシェック(Prošek)

プロシェックは、クロアチアで造られるデザートワイン。天日で乾燥させ、レーズンにすることで甘みを引き出したブドウを使って造られる、甘いワインです。名前はイタリアの発泡酒、プロセッコに近いですが、実際は、同じイタリアでもデザートワイン、パッシート・ワインの方に近いということですね。

色は濃い目の褐色、こってりと濃厚で、ドライイチジク、ウッド、レーズン、オレンジピールのような香り。アルコール度数は 15 〜 22 % くらいで、樽で最低 1 年は熟成されます。ネクターのように甘いですが、後に残る嫌な甘さではなく、コクとキレがあって目が覚める感じがします。カテゴリとしてはデザートワインになりますが、食前酒としていただくのが一般的。

プロシェックは、文献に名前が出るのは 16 世紀に入ってからだそうですが、生産はずっと古く、前 4 世紀頃、ギリシャ人がダルマチアに定住し始めた頃から造られていたとも言われています。製造に使われるブドウはさまざまで、プラヴァッツ・マリ、マラシュティナ、マルヴァシヤ・ドゥブロヴァチュカ(Malvasija Dubrovačka)、グルク(Grk)、ジュラフティナ(Žlahtina)他数種類。ヴァラエタル、ブレンドいずれもあります。

プロシェックの生産は通常のワイン以上に手間がかかり、発酵もかなり時間がかかるため、生産量は非常に限られています。生産は、家族経営のワイナリーで細々と行われている程度。そのため、クロアチアのワイン生産量のに占める割合は 0.5% を遥かに下回る程度だそうです。輸出もほとんどされていないので、これはぜひクロアチアを訪れた際に試したいところ。レストランなどで食前酒として提供されていることも多いですが、ワイナリーでみつけたらぜひ。
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