ドゥブロヴニクから車で 1 時間ほど西へ行ったところにある小さな街、ストン。食通をうならせる牡蠣、切り立った山肌にそびえ立つ長大な城壁で知られるストンは、ローマ時代から続く天日塩づくりでも知られています。
今回は、このストンの天日塩についてご紹介します。
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ストンの塩とは
ドゥブロヴニクから車で 1 時間ほど西へ行ったところにある小さな街、ストン。
食通をうならせる牡蠣、切り立った山肌にそびえ立つ長大な城壁で知られるストンは、ローマ時代から続く天日塩づくりでも知られています。
ストンの塩田はヨーロッパでも最古クラス。
早くも紀元前 167 年には、この地域で塩の生産が行われていたことを示す記録が残っています。
時代とともに拡大され、現在の姿となったのは、ドゥブロヴニク共和国時代、1300 年代に入ってからのこと。
最盛期ほどの規模はありませんが、今も、中世から変わらない伝統的な手法で塩の生産が続いています。
ストンにおける塩の生産
ストンの塩は天日採塩方式といい、太陽光によって海水中の塩をじっくり結晶化させる形で生産されています。
これは、日本で主流の、釜で海水を炊いて煮詰める煎熬方式に比べて天候の影響を大きく受けやすいため、ストンでもその年の気候によって塩の生産量には大きな波があるようです。
ストンの塩田は 58 面のプールから構成されています。
これらのプールは、製塩プロセスの 5 段階に対応した 5 つのグループに分けられており、集められた海水は、1 〜 2 ヶ月程度の間隔でこの 5 つのグループを順に移動し、濃縮されていきます。
最終段階である結晶化を行うプールは全部で 9 面。
1 面の例外を除き、この全てに聖人の名がつけられています(聖フランシスコ、聖ニコラス、聖バルタザール、聖アントニオ、聖ヨセフ、聖ヨハネ、聖ペトロ、聖パウロ)。
聖人の名を持たないプールは「Mundo(ムンド、世界の意)と名づけられており、ここで採れた塩は、ドゥブロヴニク共和国の、経済的に困窮する市民に無料で分け与えられていたそうです。
当時、塩は「白い黄金」と呼ばれ、ストンの塩はドゥブロヴニクの貿易収入の 3 分の 1 を稼ぎ出していました。
その価値を考えると、この計らいは非常に気前のいい内容だったと言えるでしょう。
中世世界において、驚くほど先進的な福祉システムをつくりあげていたドゥブロヴニク共和国。
そのあり方を垣間見ることのできる良い例です。
なお、ドゥブロヴニク共和国時代には、これらの 9 面のプールに加えて、花崗岩の土台を持つ聖ヴラホ、聖ラザロというプールもあったそうです。
ここで精製される塩は特に高品質で純度が高く、ウィーン宮廷の御用達だったとのこと。
塩の生産は 4 月から 10 月の間に行われ、結晶化を行うプール 1 面あたり、500 トン程度の塩が採れるそうです。
ソラナ・ストン・ミュージアム: Solana Ston Museum
ストンのような、中世からの伝統的な製法を守る塩田は世界的に見ても珍しく、その数はさらに減りつつあります。
クロアチア国内でも、イストリアやニンなどで天然塩の生産は行われていますが、いずれもストンとは異なり、より現代的な方法が取り入れられています。
また、塩田そのものの歴史もさることながら、ストンはドゥブロヴニク共和国の重要な戦略的拠点でもあったため、塩田以外にも歴史的価値の高い遺跡がたくさん残っています。
現状、その多くはまだ修復されず、必要な調査も行われないままとなっているため、この博物館はそのような状況を改善することも目的としているそうです。
展示品は限られていますし、いかにも博物館然とした整った形にもなっていませんが、実際の塩田など、実物がそのまま見られるリアルさはなかなかユニーク。
なお、こちらではストンの塩を購入することもできます。
一部のお土産屋さんなどを除き、ストンの塩はスーパーなどではあまり見かけないので、これは嬉しい。
お土産屋さんでストンの塩を探す場合は、クロアチア語で「Morska sol iz Solane Ston」、または「Stonska sol」と書いてあるものを探してみください。