2500 年におよぶワイン生産の歴史をもつクロアチア。
固有のブドウ種が多いのも特徴の一つで、バラエティ豊かで奥深いワインの世界を求めるワイン愛好家の探究心をくすぐります。
この記事では、知られざるワイン大国クロアチアで、広く親しまれている代表的なワインをいくつかご紹介します。
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固有品種、土着品種の宝庫
クロアチアのワインづくりは歴史が古く、2500 年ほど前、ギリシャ人入植者によってヴィス、フヴァル、コルチュラなどの島々で始まったのを起源としています。
品質は当時から優れていたようで、なんと、紀元前のギリシャの文書に、クロアチアの海岸沿いの地域のワインは最高であると称える言葉が残っています。
さて、ヴィティス・ヴィニフェラ、ワインの原料となるブドウの一族は、もともとヨーロッパに広く自生している植物で、ワイン用に栽培されているものから、そのあたりに勝手に生えているものまで様々なものが存在します。
そのような状況下では、より好ましい形質を発現するよう人工的に交雑し、新しい品種が生まれるのに加え、自然の中でいつの間にか交雑して新しい品種が生まれていることもあるわけです。
そのため、そういった状況が何千年も続いてきた場所には、多くの固有種、土着種が存在するようになりがち。
さらに、険しい山が多かったり、島が多かったりして地理的に断絶された場所が多く、特定の品種がそこだけ生き残ったり、土地の人が何らかの理由で特定の品種を選んで育てたりしていると、とてもユニークな、その土地にしかないワインが多く存在する地域ができてくるわけです。
世界各地に、そのような土着種、固有種の多い土地がありますが、クロアチアもその一つ。
険しい山が多く、島も多く、もともとヴィティス・ヴィニフェラの仲間が勝手に生えていて、しかもワインづくりの歴史が長い。
クロアチアの主な白ワイン(ブドウ品種)
クロアチアで育てられている代表的な白ワイン用ブドウ品種には、次のようなものがあります。
- グラシェヴィナ(Graševina)
- マルヴァジヤ・イスタルスカ(Malvazija Istarska)
- トラミナッツ(Traminac)
- ルカタツ(Rukatac 別名マラシュティナ Maraština)
- ポシップ(Pošip)
そして、マイナーだけれども商業ベースでの栽培が行われていて、特定の地域を代表するレア物として珍重されがちなものとしては、次のようなものが。
- ヴガヴァ(Vugava)
- グルク(Grk)
- マルヴァシヤ・ドゥブロヴァチュカ(Malvasija Dubrovačka)
グラシェヴィナ(Graševina)
- クロアチアで一番人気があり、生産量が多い
- オーストリア、ドイツでの「ヴェルシュリースリング」という名での知名度のほうが高い
- もともとクロアチアが原産なのでは?という説が有力視されている
- キリッと辛口、ドライで軽め、柑橘系の香りと引き締まった酸味
- スパークリングもあります
マルヴァジヤ・イスタルスカ(Malvazija Istarska)
- クロアチア、イストラ半島原産
- イストラで一番多く栽培されている白ワイン品種
- イタリア名は「マルヴァシア・イストリアーナ」
- 若いうちはサッパリすっきり、樽で寝かせるとまろやかで複雑な味わいでどちらも楽しめる
- スパークリングもあります
トラミナッツ(Traminac)
- 「ゲヴェルツトラミネール」という名前のほうが知名度が高い
- クロアチアにはイタリアから 1700 年代に持ち込まれて定着
- イギリスのエリザベス女王のお気に入りで、結婚式の時にわざわざクロアチアのイロク(Ilok)から取り寄せた&ハリー元王子の結婚式にもオーダーが来た
- 日本でも(品切れになっていなければ)買えます ← Amazon でイロクのワインを検索した結果ページがでるはず(たぶん)
- ライチ、バラのような香りでほのかに上品な甘さあり
- クロアチア産トラミナッツのアイスワインもあります。超レア!
ルカタツ(Rukatac 別名マラシュティナ Maraština)
- クロアチアのダルマチア地方の毎日のワイン
- イタリアでは「マルヴァジア・デル・キャンティ」と呼ばれる品種
- 混醸に利用されることが多いが、ヴァラエタルもあり
- ヴァラエタルはちょっとヴァニラっぽいいい香りの飲みやすいテーブルワインが多い
- コルチュラ島の知り合いはルカタツとダークチョコレートの組み合わせを猛烈プッシュしてました。香りがスイートで酸味も控えめなので、わからなくもない
ポシップ(Pošip)
- クロアチアの高級白ワインの代名詞
- もともとはコルチュラ島の固有種
- 最近はペリェシャツ半島やフヴァルなど他の島々での栽培も始まっている
- 香り高くて味に奥行きがあり、ドライで酸もしっかりある
- 熟成させるとより美味しい
ヴガヴァ(Vugava)
- フローラルな香りで知られる
- ヴィオニエ(Viognier)種の祖先という説あり
- ヴィオニエと同様、フローラルで上品な甘み、色は美しいゴールド
- 香りが個性的なので、淡白で個性に欠ける白ワインにアクセントのためブレンドされることも多い
- ヴィス島で栽培されているものが有名
グルク(Grk)
- コルチュラ島固有種
- 白ワイン品種なのに、なんとジンファンデル(クロアチア名:ツルリェナク・カシュテランスキ)と近縁
- コルチュラ島の特定の場所以外だとあまりちゃんと育ってくれない
- 雌株しか存在しないため、雄株のあるブドウの近くに植えないと結実しない
- 非常に香り高くフルーティだがドライ、奥行きがしっかりあってとってもリッチ。よくできたグルクは強烈においしい
- シャルドネとソーヴィニヨン・ブランのいいとこ取り、というワイン専門家がけっこういます
マルヴァシヤ・ドゥブロヴァチュカ(Malvasija Dubrovačka)
- ドゥブロヴニクとコナヴレ周辺の土着種
- コナヴレ以外ではお目にかからないので、ドゥブロヴニクにいる間に飲むべし
- クロアチア独立戦争でコナヴレは甚大な被害を被ったため、一時期絶滅の瀬戸際までいった
- 地元の人の努力によって復活してきました
- パワフルな白い花やフルーツの香り、でも酸味がしっかりあってドライ
マルヴァシヤ・ドゥブロヴァチュカの復興に一役買ったワイナリー直営です。
クロアチアの主な赤ワイン(ブドウ品種)
クロアチアで育てられている代表的な赤ワイン用ブドウ品種には、次のようなものがあります。
- プラヴァッツ・マリ(Plavac Mali)
- ツルリェナク・カシュテランスキ(Crljenak Kašteranski、別名 トリビドラグ Tribidrag)
- テラン(Teran)
- バビッチ(Babić)
- フランコヴカ(Frankovka)
- ポルトゥギーザッツ(Portugizac)
プラヴァッツ・マリ(Plavac Mali)
- クロアチアを代表する赤ワイン、ダルマチア名産
- いい条件が揃うと非常に糖度が高くなり、17% という驚異のアルコール度数を叩き出すことも(15% くらいのものがザラにある)
- しっかりしたタンニンがあって骨太(でも渋くない)
- 紙のようにドライだけれども、黒系フルーツ、ベリー、ヴァイオレットなどの華やかで濃厚な香りにより、なんだか甘みを感じる気がする
- 熟成向きで、エレガントでまろやかなスタイルから、ガツンと太陽をたたきつけてくるようなパワフルなスタイルまで、生産者によってえらく違ったワインができる
ツルリェナク・カシュテランスキ(Crljenak Kašteranski、別名 トリビドラグ Tribidrag)
- アメリカでは「ジンファンデル」、イタリアでは「プリミティーヴォ」と呼ばれるブドウ
- クロアチア原産です!
- 上述のプラヴァッツ・マリのイトコにあたるブドウ
- 性格も割とよくにています
- クロアチアでは、イトコのプラヴァッツ・マリ人気に押されてじわじわと絶滅手前くらいまで行ってしまったのですが、近年のジンファンデル人気を受けて絶賛リバイバル中!増えてきてます
テラン(Teran)
- イストリアで最も広く栽培される品種
- 特徴的なフルーティなアロマ、「野兎の血」と称される濃い赤、程よい酸味とタンニン
- アルコール度数は低め。エージングにはあまり向かないと言われる
- 温度やや高めで味わうと、香りの良さが引き立つのでおすすめ
- 日本で買えるテランが国際コンクールでもクロアチア国内コンクールでの賞総ナメの美味しいやつです
- Amazon でも買えます ← イストラ半島のワイン界を席巻している若手ワインメーカー、ファキンのワインの検索結果がでるはず
- 当サイト管理人、ファキン(Fakin)のテラン、好きすぎて家に常に 1、2 本ストックしています…
- ロゼ、ロゼスパークリングの生産でもすばらしい実績
バビッチ(Babić)
- ダルマチア地方土着種
- 痩せた石灰岩のカルスト台地に育ったとは思えない土っぽさのあるワイン
- 酸味が強め、黒系フルーツ、チェリー、土、ハーブをまぜたような独特の香り
- プレミアムバビッチは熟成向きと言われる
- オーク樽との相性はいいようで、とてもいい方向性に育つことも
フランコヴカ(Frankovka)
- オーストリアやドイツでの「ブラウフレンキッシュ」の名前のほうが知名度が高い
- フルーティながらタンニンがきいてバランスもよく、飲みやすいワインが多い
- 熟成向き、よく寝かせると奥行き、まろやかさがでておいしい
- ロゼ、ロゼスパークリングも作られていて、これもなかなか!
ポルトゥギーザッツ(Portugizac)
- オーストリアやドイツでの名前、「ブラウアー・ポルトゥギーザー」の方が知名度が高い
- 名前で誤解しそうになるけれども、ポルトガルとは無関係
- 実が熟すのが早く、8 月くらいには収穫できてしまう
- クロアチアのボジョレー・ヌーヴォー的新酒ポジション
- ボジョレー・ヌーヴォーと違って特に日付の規制はないので、早ければ 10 月くらいから楽しめます
- 10 月、11 月にクロアチア中央部、北部に行くことがあれば探して飲むべし
季節モノなので、タイミングがあうと嬉しい😍