クロアチアワイン: 歴史と特徴

皆さんは、クロアチアワインを飲んだことはありますか?

日本ではまだあまり知名度が高いとは言えないクロアチアワイン。しかし、実はクロアチアは最近、世界のステージで、個性的な美味しいワインの産地として、徐々に注目を集めつつあるのです!

この記事では、そんなクロアチアのワインの歴史についてご紹介します。


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クロアチアワインの歴史

クロアチアのワイン生産の歴史は古く、2500 年ほど前、ギリシャ人入植者によってヴィス、フヴァール、コルチュラなどの島々で始まったのを起源としています。
品質は当時から優れていたようで、なんと、紀元前のギリシャの文書に、クロアチアの海岸沿いの地域のワインは最高であると称える言葉が残っているそうです。

そしてそのままクロアチアのワイン生産の伝統は続き、ワイン生産を行う地域もアドリア海沿岸だけでなく内陸にも広がって、経済を支える重要な資源の一つとして様々な地域へ輸出されてきました。
歴代の権力者にもクロアチアワインのファンは多かったようで、古くはローマ皇帝、近世になってはハプスブルク帝国、さらには現代のイギリス王室まで、クロアチアのワインの献上やお買い上げの記録が続いています。

管理人
エリザベス女王お気に入りのクロアチアワインは、イロチュキ・ポドゥルミのトラミナッツ(ゲヴェルツトラミネール)!

戴冠式のためにお買い上げしたのを皮切りに、王族の結婚式などでも繰り返し提供されているそうです。

オットーマン(オスマン・トルコ)帝国の侵攻

歴史を振り返ってみると、現在のクロアチア国土の一部は、長いこと、イスラム圏で、飲酒は原則として禁止のはずのオットーマン帝国(オスマン・トルコ帝国)の支配下に置かれていたことがあります。

この間、ワインづくりがどうなったかというと、一定量のワインの生産は、ちゃんと許可されていたそうです。

オットーマン帝国がキリスト教に寛容な姿勢を持っていたため、ワインはキリスト教の神事において重要な存在であることを理由に、修道院、教会などでのブドウ栽培とワインづくりは許可されていたんですね。
そのため、イスラム圏に組み込まれていたとはいえ、それを理由にワインづくり自体が完全に廃れてしまう、というほどの壊滅的影響はなかったそうです。

管理人
クロアチア北部の歴史あるワイナリーなどには、当時の修道院ワイナリーがルーツになっているところが、今でもけっこうあるんです😉

しかし、オットーマン帝国の侵攻とは別に、これとは比較にならないほどの大きな打撃を与えた出来事が 2 つあります。
それは、フィロキセラと、政治体制の変化。

フィロキセラによる被害

1 つ目の大被害は、フィロキセラによってもたらされました。

フィロキセラ(ブドウネアブラムシ)は、ブドウにつく、アメリカ大陸原産のアブラムシの仲間です。
サイズはとても小さく、目を凝らさないと見つからないほどですが、これがワインの原料であるブドウを絶滅寸前まで追い込んだ、悪夢の化身のような虫なのです。

ブドウの根に取り付いて養分を奪い、根につけた傷からブドウを病気にかからせ、さらには地上部分にも移動して養分をとり、徹底的にブドウを痛めつけて枯死させてしまいます。
フィロキセラの威力は凄まじく、被害が発生した畑に生えているワイン用のブドウ、ヴィティス・ヴィニフェラ類は、例外なく全滅してしまうのです。
しかも、飛べる形態に変化して拡散するため、被害の拡大の速度も早いです。

フィロキセラは非常に複雑なライフサイクルを持ち、生態にはまだ不明な点も多く、根本的な対策は現在のところ存在しません。
そのため、一度土壌にフィロキセラの侵入を許してしまえば、もうそこでヴィティス・ヴィニフェラを育てることはできなくなります。

この状態になってしまったら、できる対策はただ 1 つ。

まずは、そこにあるブドウをすべて抜き取ります。
それから、フィロキセラに耐性を持つ(くっつかれるけど枯死までいかない)アメリカ産の食用ブドウを植えて根付かせます。
このブドウが根付いたら、幹を根本で切り落として、そこにワイン用ブドウを接ぎ木します。

こうすると、根っこはアメリカブドウ、葉っぱや実はヨーロッパブドウのハイブリッド植物ができあがります。
こうすると、フィロキセラはブドウの根に寄生はするものの、ブドウは枯死することなく、生きていくことはできるようになるのです。

この恐ろしい害虫がヨーロッパで初めて被害をもたらしたのが 1874 年のこと。
そこからたった数年 〜 数十年で、フランス、ドイツを端緒として、ヨーロッパのぶどう畑の 2/3 から 9/10 が壊滅してしまいました。

管理人
フィロキセラ禍前と後では、ワインの世界は全く違うものになってしまったのです…。

今では、フィロキセラ禍前から生き残っている古いブドウの木は、世界でも限られた場所にしか残っていませんし、自根で育つブドウはとても貴重なのです。

クロアチアにフィロキセラが到達したのはヨーロッパでは遅めの 1900 年代に入ってからのこと。
一度侵入されてしまったらもうそれを止めることはできず、クロアチアワインも壊滅的なダメージを受けました。

クロアチア移民と南北アメリカのワインの関係

農地が壊滅し、生活の成り立たなくなったワイン農家の中には、新大陸に渡り、ゼロからワイン生産を始めた方々も多くいたそうです。
このクロアチア移民達は、アメリカ大陸、特に移民の多かったアメリカ合衆国やチリでのワイン生産の成長に大きく寄与する結果となったと言われています。

それを証明する出来事の一つが、ワイン史に残る大事件、世界にアメリカワインの美味しさを知らしめるきっかけとなった 1976 年の「パリスの審判」。
簡単に言うと、フランスワインとアメリカワインのブラインドテイスティングガチンコ勝負です。

蓋をあけてみれば、ワインの専門家達の予想を裏切って、それまでは旧世界のワインと比べると品質が劣るとされていたアメリカワインが赤、白ともにフランスワインを抑えて第一位に!
これは、当時のワイン界の常識を根底から揺るがし、ワインの歴史を転換させた出来事として、今でも語り継がれるほどの大ニュースとなりました。

そして、アメリカを代表するワインとしてここに出品されたワインの中に、クロアチア移民のミリェンコ “マイク” グルギッチ(※日本だとアメリカ風に「ガーギッチ」と表記されることが多いです)作のシャルドネも入っていたんですね😉
また、グルギッチのワイナリー、ガーギッチ・ヒル・エステートは、今のアメリカワインの代表選手、ジンファンデルをアメリカに広める上でも大きな役割を果たしました。

ジンファンデル、もともとはクロアチアの品種ですし!

管理人
思わぬ形とは言え、何かしらいい結果が生まれたことは、この悲劇的な歴史の中の、数少ない救いの一つのように感じます。

グルギッチは、クロアチアのペリェシャツ半島にもワイナリーを所有しているので、クロアチアに行ったら立ち寄ってみてくださいね!

国家体制の変化

クロアチアのワインづくりに大きな影響を与えた出来事、2 つ目は、国家体制の変化です。

詳しくはクロアチアの歴史の記事に書いたのですが、クロアチアは、長いあいだ、キリスト教圏とイスラム教圏(オットーマン帝国)の境界線にあり、政情が不安定な時期が長く続きました。
その中で生まれ、蓄積されてきていたひずみが、一気に爆発したのが、第一次世界大戦後の混乱です。

政治的混乱の中で、現在のクロアチアとその周辺地域にもファシズムの嵐が吹き荒れることとなります。
そして、この地域において抑圧、大量虐殺の対象となったのはユダヤ人だけではなく、宗教や言葉などが微妙に異なるこの地域の民族間で、お互いを攻撃しあうという最悪の形を取りました。

この混乱は、クロアチアがユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国の一部になることで一時的に収まりますが、社会主義もワインづくりには悪い影響をもたらします。

社会主義の国では、国家の統制による農業の画一化が進みがち。
また、高級な嗜好品として品質を追求する個性的なワインは排除され、「質はどうでもいい、それより大量に作って平等に安定供給せよ!」というプレッシャーもかかります。

ユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国は 50 年弱と短命に終わりましたが、この間に、美味しくても実入りの悪い土着品種や、「非効率」とされる伝統的な製法や道具などの多くが失われてしまったのでした。

そして、ユーゴスラヴィアの崩壊と、熾烈を極めたクロアチア独立戦争によって、ワイン生産に従事する人口の激減、農地の荒廃なども進み、これもワインづくりにとって大きなマイナスのインパクトをもたらすこととなったのです。

さて、この 2 度の危機を乗り越えた、現代のクロアチアのワイン。

クロアチア独立戦争の後、小規模な家族経営のワイナリーが多く作られるようになり、品質を追求するこだわりの生産者も年々増えてきました。
ワイン産地としての評価も年々高まりつつあり、国際コンクールなどでも非常に高い評価を受けるワインがたくさん作られるようになっています。

ちなみに、現在、年間の生産量は約 5 万トンほど、ワイン生産国としては世界 30 位くらいの規模だそうです。
…が、輸出される量はさほど多くなく、国内消費がほとんど。

管理人
美味しいから自分たちで飲んじゃうんですね。

気持ちはわかります!

固有種、土着種の宝庫

昔に比べて激減してしまったとは言え、クロアチアには固有種、土着種が多く存在するのが特徴の一つ。
数百にも及ぶ種類のブドウが存在し、他の場所では手に入らないレアなワインも多く作られています。

「え、クロアチアのブドウの品種なんて聞いたこともないよ…」という方でも、上でちらっと出てきたアメリカで人気のジンファンデル、それにイタリアのプリミティーヴォだったらどうでしょう?
実は、この 2 種、DNA 解析によって同じブドウであることが近年判明。

もともとはクロアチア産の土着種だったこともわかったのです。

ちなみにジンファンデルは、生まれ故郷のクロアチアでは「ツルリェナク・カシュテランスキ(Crljenak Kaštelanski)」「トリビドラグ(Tribidrag)」「プリビドラグ(Pribidrag )」などという名前で呼ばれています。

今ではアメリカ、イタリアでの生産のほうが盛んで、クロアチアでの生産量はさほど多くないですが、世界のジンファンデル人気を受けて復活中。
旅行中に見かけたらぜひお求めになって持ち帰り、飲み比べなどするのも楽しいですよ!

おすすめの固有種&土着種

現地でぜひお試しいただきたい代表的なブドウ品種(ワインボトルに名前が入っています)としてはこのあたり。

赤ワイン

  • プラヴァッツ・マリ(Plavac Mali)
  • ツルリェナク・カシュテランスキ(Crljenak Kaštelanski)
  • テラン(Teran)
  • バビッチ(Babić)
  • フランコヴカ(Frankovka、ブラウフレンキッシュと同じ品種)

白ワイン

  • ポシップ(Pošip)
  • グラシェヴィナ(Graševina)
  • マラシュティナ(Maraština 別名 ルカタツ Rukatac)
  • トラミナッツ(Traminac、ゲヴェルツトラミネールと同じ品種)

代表的なクロアチアワイン品種については、こちらにいくつかリストアップしたので、あわせてどうぞ。

管理人
管理人、クロアチアワイン大好きなのでこれからもワイン記事書いていく予定!

もし、「これが知りたい!」「これについて書いて」というご希望がある方がいたら、Facebook の東京クロアチア倶楽部ページからのリクエストお待ちしています。

主な生産地と特徴

クロアチアの主なワイン生産地は、イースタン・コンティネンタル(大陸東側)、クロアチア・ハイランド(高地クロアチア)、イストリアおよびクヴァルネル・ベイ、ダルマチアの 4 つ。

このうち大陸部にあるイースタン・コンティネンタルとクロアチア・ハイランドでは、生産量の 90% を白ワインが占めています。
隣接するスロヴェニア、オーストリア、ハンガリーなどのワインと類似するスタイルが主流で、フルーティで軽め、お値段もお手頃なもの多し。

アドリア海沿岸のイストリアおよびクヴァルネル・ベイ、そしてダルマチアでは、イタリアに近いイストリアはイタリアに近く、ギリシャなどに近いダルマチアはより個性的な、いかにも地中海的な味わいのワインが多くなります。

大陸側は、比較的平坦な土地が多いため、大規模な生産者も多いです。
これに対し、沿岸部は急峻な山が多いため、ワイナリーはかなり小規模な個性的なところが増えてきます。

クロアチアのワインリージョンについてもっと知りたい方のため、こちらにより詳しい内容を載せてあります😉


クロアチアワインの楽しみ方

クロアチアは、上にもちょっと書いたとおり、ワインの生産量はそこそこあるんですが、そのほとんどを国内で消費しています。

実際、クロアチアの、地元の人に人気のレストランなどでは、ハウスワインのレベルが驚くほど高かったりするのです。
もちろん、コンテストで賞を総なめにするようなワインではないですが、飲みやすく食べ物に合わせやすいデイリーワインとしては、驚異的なハズレの少なさ。

管理人
管理人、4 年くらい禁酒していたのに、クロアチア旅行中の出来心で飲んだハウスワインの美味しさでお酒解禁しちゃいました…。

ん?ハウスワインなのに美味しい → 他のレストランでも試す → やっぱり美味しい → 最初に戻る → 深みにはまるというパターン。

ワインが当たり前にある国の底力は、結局こういうところに如実に出るな…というところですね。

なお、個人の印象ですが、筆者の周囲のクロアチアの皆さんは、フルーティなベリー系の香りにバーンと力強いアルコールのあるドライな赤(でも重すぎず渋くない)、爽やかなシトラス、草、洋梨、青りんご系の香りにキリッとした酸味とミネラル感のあるドライな白を好む方が多いように思います。

そういう系統が好きだったら、ハウスワインでもそこそこのものにありつける可能性高し。

ドゥブロヴニク周辺でワインを飲むなら、おすすめは近所のペリェシャツ半島産のプラヴァッツ・マリ(赤)、特に最高峰ブランドリージョンであるディンガチ(Dingač)とポストゥプ(Postup)。
白ならやはり近所(ペリェシャツ半島の先にある)コルチュラ島のポシップ、または一番近いワイン産地、コナヴレの土着種、超レアなマルヴァシヤ・ドゥブロヴァチュカ(Malvasija Dubrovačka)ですね。

マルヴァシヤ・ドゥブロヴァチュカはそもそも超ローカルで、このあたりでしか生産されておらず、出している店も少ないので特におすすめ。
よくできたものは、白い花、はちみつ、カリンなどのたいへん華やかな、甘美な香りがありつつ、飲むとギャップにびっくりするほど硬く爽やかでドライ、でも薄っぺらではなくてしっかり味のある、ギャップ萌えの極めつけのようなおいしい白になります。

クロアチア全体でいうなら、テラン(赤とロゼ)、プラヴァッツ・マリ(赤)、バビッチ(赤)、ポシップ(白)、グラシェヴィナ(白)、トラミナッツ(白)あたりが定番ですね。

お酒に弱い方は割って飲んでも OK!

また、「お酒あまり強くなくて…」という方は、白ワインのスパークリングウォーター割り、「ゲミシュト(gemišt)」や赤ワインの水割り、「べヴァンダ(bevanda)」を選ぶこともできます。

ゲミシュトは花っぽい香りの白だとあまり美味しくないので、おすすめは草やシトラス系のグラシェヴィナ。
同じく、べヴァンダもスミレっぽい香りのあるプラヴァッツ・マリでやると物足りなさのみでどうにもならない感じになるので、バビッチなどのほうが向いています。

べヴァンダは、家はともかく、外で飲んでいる人は個人的に見たことがないのですが、ゲミシュトを頼む人は時々見ます。
夏は爽やかで美味しいですよ!